モグラ博士 川田伸一郎|未知なるモグラを追って、土のなかのトンネルを探す
「土」をテーマにしたmammoth “Soil”特集の巻頭インタビュー。第1回は、モグラ博士の川田伸一郎さんにお話を伺いました。
– 公園や畑などで掘り返された土の小さな山を見たこと、ないですか。東京の砧公園をインターネットの航空写真で見ると、緑色の芝生に茶色いシミのようにこの山が点在しています。これはモグラ塚と言います。モグラがトンネルを掘ったときに地上に出した土です。
モグラは都心のあちこちにいて、野生動物のなかでもとても身近な存在ですが、実際に動いているのを見たことがあるかというと、まずないと思います。僕が初めて生きているモグラを見たのは、研究でヒミズという小型のモグラを捕獲したとき。あの感動は忘れられない。子どものころから図鑑のなかで動くことのないモグラを見続けてきたので、「こんな動きをするんだ」「こんな鳴きかたをするんだ」と心が躍りました。
今、僕は土のなかにあるトンネルに罠を仕掛けて、モグラを捕まえ、その体の特徴や染色体からモグラの種類を調べています。モグラは調べれば調べるほど未知の部分が多く、世界で何種類いるのかもわかっていません。土のなかでは高次捕食者として君臨していて、ミミズやコガネムシの幼虫などなんでも食べます。モグラにとって、エサが豊富な田んぼのあぜ道がものすごく住みやすい場所。でも、宅地化が進んで田んぼや畑、空き地が減ると、エサのいる土も減り、モグラも住めなくなってしまいます。
僕にとって、土はモグラのいるところ。それと、子どものころから大の生きもの好きだったので、モグラはたくさんの生きものがいる森につながるものという感じもします。土がなくなってしまったら、すごく寂しいですね。
川田伸一郎(かわだ・しんいちろう)
1973年、岡山県生まれ。国立科学博物館動物研究部研究主幹。農学博士。幼少時代は昆虫少年。大学院時代に小型のモグラ、ヒミズを研究したのを機に、モグラの分類と種分化に関する研究を続けてきた。